2014年1月3日金曜日
ローマ法王に米を食べさせた男
ローマ法王に米を食べさせた男 または「地域おこしのカリスマ」
2013年04月04日 | ブック・レビュー
ローマ法王に米を食べさせた男
高野誠鮮
講談社
面白い本を読んだ。高野誠鮮(じょうせん)著『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』(講談社刊)1,470円という本だ。「誠鮮」とは珍しいお名前だが、実は日蓮宗のお寺のお生まれである。Wikipedia高野誠鮮によると《科学ジャーナリストで、日蓮宗僧侶、平成6年から平成18年3月31日まで金沢大学理学部大学院等の講師も務めた》。
本書の「著者プロフィール」には《石川県羽咋市役所農林水産課ふるさと振興係課長補佐。1955年、羽咋市生まれ。科学ジャーナリスト、テレビの企画・構成作家として「11PM」「プレステージ」など手がけた後、1984年に故郷に戻り羽咋市臨時職員となる。NASAやロシア宇宙局から本物のロケット等を買い付けて宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」を開館し、全国で話題に。正職員として神子原地区再生プロジェクトに成功し「スーパー公務員」と呼ばれる》。現在の所属は、同市文化財室・歴史民俗資料館付。
AMAZONの本書「内容紹介」によると《過疎高齢化により18年間で人口が半分に落ちこんだ“限界集落”の石川県羽咋市の神子原地区を、年間予算60万円で、わずか4年間で立ち直らせた“スーパー公務員”・羽咋市役所職員の高野誠鮮氏。神子原地区の米をローマ法王に献上することでブランド化に成功させる》。
《農家が株主となる直売所を作って、農民に月30万円を超える現金収入をもたらす。空き農家を若者に貸すことでIターンを増やす。アメリカの人工衛星を利用して米の品質を見抜く。『奇跡のりんご』のりんご農家・木村秋則氏と手をむすんで、JAを巻きこんでの自然栽培の農産物つくりを実践し、全国のモデルケースとなるなど、その活躍ぶりは際立っている》。
《本書では同氏が手がけたさまざまな「村おこし」プロジェクトを紹介。これを読むと、仕事のアイディア力が増す、商売繁盛のヒントになる、そしてTPPにも勝つ方法を学ぶこともできる! 》。確かに本書は、「なるほど、こんな手があったのか!」と目からウロコのアイデアのオンパレードである。HP「霞ヶ関ナレッジスクエア」が、うまく要点を紹介している。
写真は「コスモアイル羽咋」のHPより拝借
過疎の村を卓越したアイデアと行動力で再生させる
石川県羽咋市の市役所職員・高野誠鮮氏は2005年、過疎高齢化で「限界集落」に陥った農村を含む神子原(みこはら)地区の再生プロジェクトに取り組んだ。本書は同プロジェクトが大成功を収めるまでの経緯、顛末を高野氏自らが振り返ったものだ。
プロジェクトの年間予算はわずか60万円。しかし高野氏は、「空き農地・空き農家情報バンク制度」「棚田オーナー制度」「烏帽子親農家制度」「直売所『神子の里』」等の数々のユニークなアイデアを打ち出し、驚くべき行動力で、反対したり自ら動こうとしない地元農業従事者たちとの、粘り強い交渉や激励によって実現させていく。その結果、4年間のうちに、多くの若者を誘致し、農家の高収入化を達成する。なかでも農家たちが自主的に運営する直売所は、平均年間所得87万円だった農家に十分な収入をもたらしただけでなく、さらなる発展にも寄与する「自分で考え行動する」農家を生み出した。
「烏帽子(よぼし)親農家制度」では、酒の飲める女子大生が農家にホームステイしながら農作業に従事する。夜は酒を飲みながら農民とコミュニケーションする。女子大生は喜ぶし、農家は元気になる。マスコミで話題になるし、役場には1日1,500円の「体験料」が入る。一石四鳥の仕組みである。また
神子原、神の子、キリストという連想からローマ法王を思いつく
神子原(みこはら)地区で収穫される農産物をブランド化するために、高野氏は「ロンギング」(社会的影響力の強い人が持っていたり、飲食している、身に付けているものが欲しくなること)を使うことを思いつく。「神子原」の地名から「神の子」、イエス・キリスト、キリスト教と連想し、「ローマ法王に米を食べてもらう」という突拍子もないアイデアだった。
高野氏はすぐにローマ法王庁に直接手紙を書き、数ヵ月後にはOKをもらう。同氏自らがバチカンに出向いて神子原米を献上し、それを全国紙が取り上げる。結果、役所への注文の電話が鳴りっぱなしになる。ブランディングは大成功だった。言葉だけで説得・交渉するのではなく、実際に行動することによって説得力をつくるのが高野氏流の人の「巻き込み術」といえる。本書からは、常識にとらわれない自由な発想法とともに、そうした「人を動かす」方法論を学ぶことができる。
では本書の全目次と、気になった小見出しを列挙してみる。
第1章 「一・五次産業」で農業革命!
第2章 「限界集落」に若者を呼ぶ
14.「酒が飲める女子大生」で話題作り
17.口コミで農家カフェを流行らせる
第3章 「神子原米」のブランド化戦略
21.「ローマ法王御用達米」に認定!
23.売りたい時に売らないのが、売る方法
24.エルメスの書道家が米袋をデザイン
27.人工衛星でおいしい米をさがす
28.大手商社より格安。行政ビジネス第1号
31.農家経営の直売所「神子の里」を開店
第4章 UFOで町おこし
35.レーガン、サッチャー、ゴルバチョフに手紙
36.AP、AFP、ロイター。外電で情報発信
40.「UFO国際会議」で宇宙飛行士を呼ぶ
41.「コスモアイル羽咋」に本物のロケットを
第5章 「腐らない米」。自然栽培でTPPに勝つ!
44.“奇跡のリンゴ”木村秋則さんを口説く
45.「自然栽培実践塾」で未来の農業を!
42.農業大国フランスに殴り込み
目次と小見出しを読んだだけで「すごいことが書いてあるな」という気になるだろう。本当に「すごいこと」が書いてあるのだ。少し引用してみる。
17.口コミで農家カフェを流行らせる
人間は、山の過疎集落のようなまさかと思う場所に、本格的に自家焙煎したコーヒーを出してくれる店があったりすると、「ああ!」と驚くものなんです。そういう意外性のある体験をすると、別の人を連れて来て同じ体験をさせたがるんですよ。
それが店の宣伝をしようと国道筋に看板を置いたりすると人は来なくなる。「ああ、知ってるよ」と店の名前を認知する人間は増えるけど、そういう人はそれだけで興味を失ってしまうので、絶対に来ない。人を連れて来ようとも思わない。看板がないから来るんです。
うーん、なるほど。わざと看板を出さないのだ。
写真は羽咋市のHPより拝借
23.売りたい時に売らないのが、売る方法
東京の田園調布から電話があった時には絶対売りませんでした。白金の人にも売らない。成城や目白の人にも売らなかった。全部で60件近く断りました。高級富裕住宅街から電話があった時は、「先日まではございましたが、たった今、売り切れました」と答えるようにしたんです。
「行きつけのデパートにお問い合わせされてはいかがでしょうか。ひょっとするとあるかもしれません」と。でも、ないですよ。私たち、デパートと取り引きしていないですから。何をしたかったかといったら、神子原米を高級デパートの食料品売り場に置いてほしかったんです。
お客からデパートに問い合わせるように仕向け、「えっ、何で置いてないの?」と言わせるのだ。デパートは、あわてることだろう。
28.大手商社より格安。行政ビジネス第1号
それ、嘘だと思ったんです。衛星ビジネスを知らないからだまされたんだと。調ぺてみると、専用のハードなんか買わなくても、家庭のパソコンでも十分わかるんです。知らないからだまされるんです。行政やJAはバカだと思って、赤子の手をひねるようにしてやって来る業者がいるんですよ。
デジタル・グローブ社に、何月何日にこの地区の上空を飛ぶ時に撮影してくれってオーダーを入れて、その画像解析をソフトがやって、データをダウンロードするだけなんです。家のパソコンでも十分です。初期投資はほとんどなく、あえていうならばソフトだけです。1人でも出来ますよ。
人工衛星を使って、田んぼの米の食味測定(タンパク質含有率の測定)ができるのだそうだ。大手商社に頼むと1,200万円(測定料300万円+専用ソフト代)かかるところ、直接アメリカの商用衛星に依頼すると37万円でできる。これを羽咋市の「行政ビジネス」にしたのである。
以下、2枚の地図は石川県の観光HPより拝借
31.農家経営の直売所「神子の里」を開店
POSシステムを導入して、直売所のレジをピッて通ったら、メールなどで生産者に通知が届くようになっています。「高い金を出してそんなシステムを導入する必要なんかない、普通のレジでいい」と反対する声もあったけれど無視しました。生産者にとっては、売れたらすぐに反応が返ってくるわけだから、いっそうの励みになるんです。生産者側に立つと、それぐらいのコストはかけても必ず元はとれます。
35.レーガン、サッチャー、ゴルバチョフに手紙
まずは羽咋の自己紹介を書き、そして、「この羽咋でUFOによる町づくりを始めました。これに対してゴルバチョフ書記長はどのようにお考えになりますか。ご感想と出来れば我々に激励のメッセージを下さい」と書いて出したんです。その次に書いたのは、レーガン米大統領です。3番目にサッチャー英首相。
他にもローマ法王など、世界を動かせると言われているVIP120人に手当たり次第書いたんです。(中略)だいたい45%くらい返事が来ました。けっこう来るもんなんです。それで返事が来たらマスコミに流したんですね。1粒で2度おいしいんです。
36.AP、AFP、ロイター。外電で情報発信
「羽咋がUFOで町おこしを始めた」というニュースを、まず北海道に流しました。羽咋から遠ければ遠いほど効果があると思ったからです。(中略)次は九州。各県ごとにメデイアを調べて、情報を流したんです。その次、東北地方です。石川、富山、福井という地元のメデイアには、半年間だんまりをきめこんだままだったんです。なぜそうしたかというと、理由があるんですね。自分の家で知らないことがあると気になるじゃないですか、何がおこっているんだろうと。
さらに次はもっと大きな「外堀作戦」だと、海外に目を向けました。APとかAFP、ロイターという外電にバンバン情報を流したんです。アメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙、旧ソ連の「コムソモリスカヤ・プラウダ」など16紙が書いてくれました。そういうことがあると、今度は東京の新聞も気になり、情報を流してくれたんです。
うーむ、これは逆転の発想だ。「遠くの神さん 有り難い」というが、海外とか遠方のマスコミが報道すると、地元では「何だ何だ」と大騒ぎになるのである。smoothさん(ビジネス書のコンシェルジュ)のブログ「マインドマップ的読書感想文」が、詳しい感想を紹介している。
○著者の高野さんの肩書は「石川県羽咋市役所農林水産課ふるさと振興係課長補佐」であり、いわゆる「市役所職員」になります。ただし、上記でご紹介した通り、やってきたことはマーケッターや広告代理店、PR会社真っ青の破天荒ぶり。そもそも、何でこういう人が市役所職員なのか疑問に思われる方も多いと思いますが、実は高野さんはアマゾンの「著者略歴」で触れられているように、以前は雑誌のライターやテレビの構成作家の仕事をしており、家庭の事情で帰京し、しかたなく(?)市役所の職員となったとのこと。
それを知って、やっと高野さんのアイデアの豊富さやユニークさが腑に落ちた次第です。ちなみに構成作家時代の『11PM』の仕事の関係で、UFO評論家として有名な矢追純一さんともよく会っていたそうで、それが後の「UFOによる町おこし」につながってくるのですが。
画像は「コスモアイル羽咋」のHPより拝借
○さて、本書の中心となるのが、この「UFOによる町おこし」と、タイトルにもある「お米」のお話。当初「ローマ法王にお米を献上する」とは、なんて大それたことを、と思ったのですが、上記ポイントの5番目にあるように、町おこしの時点で「VIPアタック」を経験済みだったんですね
袋の字を書いたのは、エルメスのスカーフをデザインしたことのある、書道家の吉川壽一先生。平成23年度 神子原米 精米(標準精米)5kg そのことも「あえて」クレジットしていないのも、「他人に話したくなる物語性」を作り上げるためなワケです。この「神子原米」で展開されているブランド戦略だけでも、本書を読む価値はあると思われ。
○こうしたマーケティング的なお話と並行して語られているのが、「コミュニケーション」のお話です。「限界集落に都会の人を呼ぶ」と言えば「よそ者は村の秩序を乱す」と反対する村民。「JAに頼らず、自分たちで売ろう」と言えば「おまえが売ってみせたら、俺らが売ってやってもいい」という農民。シンポジウムを開くためにお金を集めたら、冬の除雪費用に回せという市議会議員。それ以前に「事なかれ主義」で固まっているのが、公務員というものです。何かやろうとすると、必ず「人」という障害が立ちふさがることばかり。そんな中、人を納得させ、人を動かすために、高野さんがどうしたか、という部分もぜひお読み頂きたいな、と。
私が一番ビックリしたのが“41.「コスモアイル羽咋」に本物のロケットを”のくだりである。コスモアイル羽咋という博物館の玄関に実物大のロケットのレプリカを置こうとした。見積もりを依頼すると工事費込みで1億6千万円と年3回のメンテナンス料、塗り替えには1回3百万円かかるとのことだった。しかしNASAに行って、かつて宇宙を飛んだ本物のロケットを買い付けると、わずか1千万円で買えたという。しかも本体はマグネシウム合金なので錆びない(メンテナンス料も塗り替え費用もゼロ)。
高野氏は昨年、テレビ東京のカンブリア宮殿にも出演された。こんな公務員がいたとは信じ難いが、すべて本当の話なのである。ぜひご一読をお薦めしたいが、無料で高野氏の講演録が読めるので、まずはこちらから入るのも良いだろう(PDFで14ページ)。
固定観念を捨て、奇手・妙手を含めあらゆる可能性を考えて、果敢に実行することが肝心だ。久々にそんなことを思い知らされた。高野さん、良いお手本を有難うございました!
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