2015年1月5日月曜日
大人気の立ち食い「いきなり!ステーキ」、型破りのモデル?なぜ高価格&低価格実現?
大人気の立ち食い「いきなり!ステーキ」、型破りのモデル?なぜ高価格&低価格実現?
皆さんは立ち食いステーキ専門店「いきなり!ステーキ」をご存じだろうか。2013年12月、東京・銀座にオープンしたこのお店が大ヒットしている。
ステーキは高価な食事の代名詞ともいえるが、本格ステーキを立ち食いで量り売りするというのが、この店のコンセプトだ。銀座店オープンから順調に店舗を増やしており、14年8月現在、東京都内に7店舗がオープンしている。7月15日には六本木に、8月5日には赤坂に、それぞれ新店舗がオープンしたばかりだが、今後さらに3店舗がオープンする予定となっている。
同店を経営するのは、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で知られる株式会社ペッパーフードサービスだ。
同社は、1970年、一瀬邦夫社長がコックとして開店した洋食店が前身だった。87年からステーキ専門店を始め、94年には、特別な電磁調理器でスピーディにおいしいステーキを提供する「ペッパーランチ」の業態を開始。その展開の一方、同社は炭焼きのステーキ店も経営しており、「肉1g当たり10円」で客の好みの大きさにカットして提供する手法が受けていた。これを半額で提供しようという一瀬社長の発案から検討を重ね、行きついた結論が「肉1g当たり5円」で提供する立ち食いタイプの「いきなり!ステーキ」だという。
同店の原価率は57%となっており、ペッパーランチの30~35%と比べても圧倒的に高く、採算が良いビジネスとはいえない。しかし、立ち食いにすることで、少ないスペースで収容可能人数を増やし、お客の回転を早めた。また、メニューをステーキ、ライス、サラダ程度に抑えることで、食材の廃棄を減らしつつオペレーションを簡略化するなど、コスト削減を徹底した。こういった企業努力で、肉の品質を確保しつつ、利益を出しているという。銀座1号店は20坪(約65平方メートル)程度で30人分のスペースを確保。従業員はわずか5~6人。一日当たりの平均客数は約500人で、一人当たりの平均単価は2000円ほど。一日当たりの売り上げは約100万円で、当初予想を1~2割上回ったことも嬉しい誤算だったが、さらに予想以上だったのが、お客の滞在時間の短さだと言う。開店前は、平均滞在時間を1時間前後と見込んでいたが、ふたを開けると30分ほどしか滞在せず、早い回転で売り上げ効率を高めている。銀座といえば、日本でもトップクラスの賃料だが、それを補って余りある売り上げと少ない人件費で、利益を伸ばしている。●「俺の」シリーズを参考にしたビジネスモデル
上記のような立ち食いで最近はやっている店舗に、俺の株式会社が展開する「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」などの「俺の」シリーズを思い出す人も多いのではないだろうか。同社は、ブックオフコーポレーションの創業者である坂本孝社長が2年前に創業した。ペッパーフードサービスの一瀬社長も「俺のイタリアン」を視察し、「いきなり!ステーキ」の業態を検討したといわれている。
ご存じの方も多いだろうが、「俺の」シリーズは、ミシュランの星付きの高級店で活躍してきた料理人を起用し、最高級の食材を惜しげもなく使い、それを驚愕の低価格で提供する。この低価格を実現するために、基本的に店内は立ち飲み形式(一部テーブル席)、または時間制限を設けており、1日3.5回転という高回転を達成している。「高級素材を驚愕の低価格で提供」というコンセプトは大きな話題になり、広告宣伝をせずともお店は常に予約で埋まり、行列ができている。その結果、原価率が60%台(通常飲食業の原価率は30%程度)でも利益が生みだせる型破りのビジネスモデルを成立させている。
両社に共通するのは、高品質、低価格を提供するために、トータル的なマネジメントを行っている点だろう。これまでの飲食店は売り上げを上げるために、食材の原価、人のコストを抑えて、お店の雰囲気やサービスを向上させる努力を行ってきた。しかし、両社は高品質と低価格を両立するために、質(Quality)、コスト・お金(Cost)、デリバリー・時間(Delivery)、環境(Environment)をコントロールしている。
ビジネスを行う際には、QCDEのバランスを考えることが重要だといわれている。両社は、多少の違いはあるが、基本的にクオリティを上げるためにオペレーションコスト(入荷検品・値段付け・商品陳列・商品補充・レジ作業などの店舗経営に関わるコスト)や店内環境を犠牲にしているといえる。店内は狭く、顧客は落ち着いて食事をすることができない代わりに、高品質の料理を低価格で食べることができる。そして、そこに価値を感じる顧客はリピーターとなっている。顧客ターゲットを絞っていることも重要な戦略の一つといえる。
もちろん、QCDEすべてを向上させることが理想だが、QCDEは常にトレードオフ(相反)の関係である。自社のサービスでは顧客に何を提供したいのか、といった戦略を明確に持ち、その方針をブレさせずに実行することで、高い顧客満足を得られるとともに、結果、自社のビジネスも成功するのだ。ビジネスを検討する際は、つい目先のお金に目が行きがちになる。売り上げや利益を上げるために、コストを抑えることが必要となり、原価低減やリストラが行われることになる。しかし、目先のコストだけでなく、トータルリソースコストをコントロールすることが重要なのだ。
2015年1月4日日曜日
たこ焼きの銀だこが、上場を果たしたワケ
たこ焼きの銀だこが、上場を果たしたワケ
たこは8本でも、たこ焼き1本足の常識外れ経営
たこ焼きの「築地銀だこ」を運営する、ホットランドが9月末、東証マザーズに上場を果たした。「ときどき利用しているよ」という読者の方々も多いはずだ。だが、参入が極めて容易な「たこ焼き」で、しかも近年までは、たこ焼き1本の事業だったといってよい同社が上場を果たしたのは、きわめて異例のことだ。
実は、上場の背景には、経営論のセオリーを覆す信念があったのだ。今回は創業者・佐瀬守男社長の話をもとに、常識にとらわれない、ブレない決断について考えていこう。
売り上げは「1日350円」の日も
もともと佐瀬社長が、愛車を売った40万円を元手に、今の銀だこの前身となる店舗を群馬で立ち上げたのは1988年。当時は、スーパーの敷地内で、たこ焼き、焼きそば、大判焼きなどを佐瀬社長自らが焼いていた。
しかし、当時はどこにでもある「粉もの屋」で客入りは悪かった。待たせたくないので、作り置きをする。すると、味が落ちてしまい、客入りが悪くなる、という悪循環。売り上げは、なんと1日わずか「350円」の日もあったという。
そこで、佐瀬社長は思い切って、反対を押し切り、商品をたこ焼きのみに絞り込んだ。たこ焼きは、実演販売がしやすく訴求力がある。
また、時間帯に関係なく売れる。作り置きをせず、焼きたてを提供できるというメリットがある。そして何より、家族みんなでつつきあえる「共食」の食べ物である。たこ焼き専業にして、味にも改善を重ねたことで、徐々に売り上げが拡大していった。これが、銀だこ登場のきっかけだった。
顕在化した「タコリスク」と、スケールデメリット
たこ焼きに絞り込んだ後は、全国のたこ焼きをこれでもかと食べ歩き、半年以上、毎日たこ焼きを食べていたという佐瀬社長。その後、現在のたこ焼きの味を確立した後は、順調に成長を続けていった。
ちなみに、たこ焼きの表面を揚げる独自のスタイルは、持ち帰っても冷めず、いつまでもおいしく食べられるように考え出したものだ。
しかし、そこで顕在化したのが「タコリスク」だった。
店舗が100店を超えた頃から、原材料の中でも特にタコの調達に苦労し始める。300店を超える頃には、銀だこが輸入していたタコは年間2000トン以上にのぼった。実に、日本のタコ輸入量の1割以上を占めていたのだ。
そうなると、銀だこの買い付け一つで市場が左右されるため、安定調達が非常に難しい。天かす、青のり、紅ショウガという他の料理ではニッチな食材でも、同様の現象が発生した。しかも店舗数が増加するにつれて、スタッフのレベルの差が激しくなり、味や、サービスもばらつきが目立つようになった。
通常規模が拡大すれば「スケールメリット」が働くが、銀だこに関しては「スケールデメリット」の方が大きくなってしまっていたのだった。
タコリスクは、タコで回避する!
こうした場合、経営論のセオリーで言えば、リスクの高いたこ焼き業態はほどほどに、他の飲食業態にも進出して、拡大していくのが飲食チェーンの経営戦略の王道だ。しかし、たこ焼きにこだわる銀だこは違った。「タコのリスクは、自らのタコで回避する」べく、商社任せの調達から、タコの自社調達にかじを切ったのだ。
世界中の海から契約漁業でタコを調達。なんと、タコをとらない、食べない国に対しても、タコのとり方をゼロから指導して、世界中でタコ漁を展開した。たこ焼き屋がアフリカの僻地まで行ってタコ漁業を指導したわけだ。加工用には、国内工場で体制を整えた。さらには、本格的には世界で初めて宮城県・石巻市でタコの養殖体制の構築も進めている。
たこ焼き業態に徹底してこだわるからこそ、たこ焼きの機械も「完全自社特注」のオーダーメード品で統一。従業員のレベルを底上げするため、銀座の研修センターで教育体制も整えた。こうしてたこ焼き専業業態にふさわしい体制を本気で整えた。
佐瀬社長は、「もし、たこ焼き以外の事業にも当初から注力していたら、現在はなかった」と断言する。最大の成功要因は、逃げずに「タコ焼き1本に絞り込んだこと」だと言うのだ。
つまり、銀だこは、たこ焼きに絞り込んで自ら退路を断ったので、逃げ道がなかった。逃げ道がないからこそ、タコの調達など、常識にとらわれず創意工夫ができ、逃げなかった中で、社員みんなの気持ちが一つになっていった。
佐瀬社長は言う。「お金で動く人は、すぐに去っていきます。お金ではなく、逃げずに、リスクを取ってでも、みんなが「ワクワク」することを共通目標=夢にしていくことが人がついてくる秘訣だと思います」。
自分たちの携わる「世界的な和のファストフード」であるたこ焼きと、共食という日本の文化を世界に発展させていく。安易にリスクを分散せず、熱い想いを貫いたからこそ、人がついてきたわけだ。
8本足でなく、1本足で信念を貫く
もちろん直近では、銀だこが大きく成長した後、他業態にも展開を進めているが、あくまでそれも銀だこを起点としている。
たこ焼きという和がつまったファストフードを世界に広めることができるか?佐瀬社長の夢は大きい
例えば、たい焼き業態「銀のあん」はたこ焼きと近い原材料で、同じ工場ラインで生産が可能だ。また、近年買収した、アイスクリーム業態「コールドストーン」は、夏につよいアイスクリームと冬に強いたい焼きとの補完関係をうまく実現している(例えば、最近はたい焼きの銀のあんと隣同士で出店、同じ人員が夏はアイスクリーム、冬はたこ焼きを売っているのだ!)
こうして、銀だこをメインとしながら、周辺業態や、さらには海外展開を進めつつある銀だこ。最近は、現地向けで焼くのが簡単な機械を導入の上、アジアを中心に展開を加速させている。
もちろん何でもリスクをとって1本足でいけば必ず成功するというわけではない。銀だこの影には、1本足打法で去っていった、数多くのライバル企業がいる。
しかし、銀だこの例が示しているように、「リスクを嫌うあまり、すぐに分散」のようなスタンスでは、人がついてこないのもまた事実なのである。
1つの目標を実現するためには、途中で大きな困難が付きまとう。そんな時、タコ足のように8本ではなく、あえて1本足に絞りその他を捨てる意志と覚悟があれば、道は開けるということを、銀だこは教えてくれている。
「和のファストフードであるたこ焼きと、共食という日本の文化を世界で発展させていく」。創業当初は、数名で語っていたのと同じ夢を、これから世界で展開させていくことができるだろうか。これからの銀だこの飛躍に期待したい。
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