2017年11月6日月曜日
1泊1980円ホテル
この「1泊1980円ホテル」は東京駅から山手線で約10分、鶯谷駅で降りて根岸方面に約15分ほど歩いた立地にある。銀座駅からだと東京・メトロ日比谷線で約20分、入谷駅で降りて、三ノ輪方面に歩いて約5分の立地だ。
省けるコストをすべて省き、最低限、宿泊に必要なサービスしか提供しないことで低価格化を実現したというだけあって、ここで提供されるサービスは他のカプセルホテルと比べると驚くほど簡素である。
まず、寝具は、枕カバーやシーツは客が自分で替えなければならない。ただし、毎日でも、「替え」は用意してくれる。フェイスタオルは1日1枚まで無料提供、シャワーも無料で1日何度でも使える。ドライヤーも備え付けのものが用意されていた。
● Wi-Fi無料でロッカーも完備 それでも「ドヤよりきつい」
記者も出張時に約2週間、この「1泊1980円ホテル」に宿泊したが、都心から近い立地でもあり、ただ宿泊だけの目的なら使い勝手はいいかもしれない。
例えば、約半畳程度のロッカーが宿泊客一人ひとりに用意されている。ゴルフバックが4つ程度入る大きさだ。長期滞在の荷物にも十分対応できる。鍵がかけられるので貴重品も保管できる。
ただ、プライベートスペースであるベッドルームは、都内にあるカプセルホテルに比べてやや狭い。身長175センチ・体重80キロの記者が寝ると、寝返りは打てるが、起きると頭を打つか打たないか…といった感じだ。狭いところが苦手な人には向かないかもしれない。
Wi-Fi完備で使用料も取られない。年代を問わずベッドルーム内でオンラインゲームに興じている向きが多かった。
宿泊客で岩手県から3週間の滞在予定で東京にやって来た建設作業員だという50代男性が語る。
「正直、ドヤよりも住環境は厳しい。でも、安さには代えられない。いくら都内での滞在費は会社負担だといっても、あまり高額だと、また次の機会に使ってもらえるかどうか、わからないからね」
たしかに、記者よりも一回り大柄に見えたこの50代男性にとっては、寝返りひとつ打つのがやっとというベッドルームは、ややキツいだろう。しかし、小柄な女性にとっては、さほど苦にならないようだ。就活のために九州からやって来たという20代女性が語る。
「寝るだけならそんなにキツくはないです。ベッドで座りながらパソコンを広げて作業もできます。1泊1980円(税抜き)ですが、連泊すれば割引もあります。ポイントサイトも使ったので、10日間で実質1万5000円で済みました」
男性と女性は、それぞれ専用フロアに分かれており、それぞれのフロアでは男女が鉢合わせになることはない。前出・20代就活中女性は言う。
「他の人と話す機会はまずありません。屋上にでも行かない限りはないですね」
喫煙所兼ロビーとしても利用されているこの屋上には自動販売機が置かれており、缶ジュースや缶ビール、カップラーメンも買える。
● 足を伸ばせるだけ 漫画喫茶よりマシ
屋上利用の際は一度、1階のフロントまで降りて、利用する旨を申告、サインをしなければならない。「1泊1980円ホテル」のフロントはその理由をこう語った。
「屋上で騒ぐお客様がいらして、近隣から苦情が来たからです。せっかく旅に来られているんだから、あまりうるさいことは言いたくないのですが…」
その屋上に夜行くと、前出の就活中女性が言うように、日によっては年代、男女を問わず宿泊客が缶ビールやジュースを片手に歓談していることもある。
宿泊客たち曰く、「若い就活生の話を聞いて自分も頑張ろうと思った」(50代男性)、「バッグパッカーの人から旅話を聞いて元気をもらった」(30代女性)、「人生の先輩から社会の現実を聞き勉強になった」(20代男性)――ビジネスホテルやカプセルホテルにはない宿泊客同士の交流も、宿泊客自身が望めば可能といったところだ。
この屋上での宿泊客同士での交流で記者が出会った40代後半男性は、「十分に働ける体力あり」という理由から、東京都、横浜市、大阪市で生活保護受給申請したものの門前払いを食らったため、全国の建設現場や工場での住み込み勤務、漫画喫茶などを転々とし、最近はこの「1泊1980円ホテル」に時々、宿泊しているという。
「ベッドで眠れるのが有難いね…。同じ価格でも漫画喫茶だとベッドで足を伸ばして眠ることはできないから」
「1泊1980円ホテル」には、長期宿泊客も少なくない。1週間の滞在予定だという徳島県からやって来た50代会社員男性は言う。
「都内の大学に進学した娘の監視を兼ねてやって来ました。娘は大学の寮に住んでいるので、そこに泊まるという訳にはいきません。ここは長期間宿泊するには便利です。ちょっと狭いのが難点ですが、この価格なので気になりません」
実際、「1泊1980円ホテル」によると、長期宿泊者は少なくないという。
「荷物も宅配便で受け取れます。なかにはアマゾンで注文した品をここで受け取るお客様もいらっしゃいますから」(1泊1980円ホテル)
荷物の受け取りは可能だが、ホテルフロントからの荷物発送は受け付けていないという。ただし、近隣にコンビニエンスストアや宅配便の荷受所があるから、利便性は悪くない。
とはいえ長期滞在者にとってネックなのがコインランドリーの設置数が少ないことか。もっともこれは近隣のコインランドリー利用で対応できる。しかしホテルという性質上、自炊設備がないので、宿泊中、ずっと外食、もしくは近隣コンビニで購入した弁当などを食べている人がほとんどだった。近いうちにバーの開店を準備しているというが、食事ができるようになると、さらに利便性が増して宿泊客人気が高まるかもしれない。
2020年の東京オリンピック開催で、都内のホテル需要が高まるなか、10日間滞在で約2万円というこの“激安”ホテルの出現は、ホテル業界の新たなる台風の目として、今、業界関係者の間で注目されている。
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