「俺のフレンチ」 なぜ原価率100%、200%のメニューが可能なのか?
世界的な戦略コンサルティング会社・ボストンコンサルティンググループの創業者のブルース・ヘンダーソンは「常識的な行動をとったりとらなかったりする企業は、常に合理的な行動しかとらない企業に対して優位に立つことができる」と語っていたものです。
最近のビジネスの世界で襲い掛かってくる強い競争相手は、往々にして常識を捨て去るところから攻めてきます。誰もがビジネスのルールとはこういうものだと長年の商慣習にどっぷりとつかっているときに、非常識なビジネスアイデアを伴って参入してくるのがイノベーターというものです。
アップルがiPhoneを始める前は、携帯電話はボタンを押して使うものだと誰もが思っていました。アプリをダウンロードして画面をタップして使うスマホの常識もiPhone登場以前は非常識なことでした。
電車に乗るのには切符がいるという常識にとらわれているとSuicaの出現にびっくりすることになります。それも切符だと考えていたら大間違いで、鉄道会社の発行するSuicaが電子マネーとして金融決済手段の主流になるなんて金融機関の人は考えていなかったはずです。
繰り返し言いましょう。ビジネスの世界では戦略的な競争相手は常識を超えたところから攻めてきます。
しかし一方でビジネスの世界では常識は大切です。誰だって非常識なビジネスマンと仕事をするのは嫌なことです。だからほとんどのビジネスマンは常識の世界で頭を使うことに慣れているのです。
ここに、普通のビジネスマンが戦略的思考の訓練をするのが苦手な最大の理由があります。普段は常識的に仕事を進めながら、戦略を考えるときだけ非常識に脳を使わなければならない。そんなことを言うと普通は「無理っ」と考えるのが常識です。
結局のところ、普段の仕事の時間には常識的な思考力を使って、戦略を考えるときだけ非常識な思考ができるとベストなのですが、なかなか人間の脳はそういうふうには作動しないものです。だから日常の中で少しずつ常識を超えて戦略思考力を鍛える訓練をする必要があるのです。
非常識な発想で成功した戦略家の話や、普段あまり考えたことのない世界の話。そういったものを題材にすることで、普段は常識的な読者の方も、このトレーニングをしている間だけは非常識に物事を考える訓練ができるはずですよ。
【問題】
2012年のヒット商品番付にも登場した『俺のフレンチ』という飲食店チェーンがあります。超有名フランス料理店のシェフを口説いて料理長にすえて、驚くほどおいしい料理を驚くほど安く提供することで人気を呼びました。ビジネスモデルの秘密は高級フレンチなのに立ち席にすること。1日3.5回転と顧客の回転率を上げて収益を確保しています。さて、この『俺のフレンチ』のビジネスモデルにはもうひとつの秘密があります。メニューの中に原価率が100%や200%の料理が普通に存在しているのですが、なぜそんなことができるのでしょうか?
【ヒント】
原価率200%ということは食材の原価だけで2500円のコストがかかるメニューを1250円で提供しているということ。なぜそんなことができるのでしょうか?
答えは――
広告費の代わり
大都市の繁華街で中規模以上の飲食店はおしなべて、ぐるなびやホットペッパーといった飲食店サイトに月50万~100万円程度の広告費を支払ってお得なクーポンや限定メニューなどを掲載することで集客努力をしています。『俺のフレンチ』では「同じ100万円の広告費を支払うならお客さんの胃袋に直接支払おう」というのが社長の考えだそうです。そこで原価ぎりぎりや原価割れメニューをたくさん提供しているのです。1000円の原価割れメニューを1000食提供してもかかるコストは同じ100万円。そしてその方が口コミでお店に行列ができる効果はただ広告を出すよりも大きいというのです。
どうせ必要経費ならどこにつかうかをじっくり考えましょう。
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