「大勢の人に1つ買っていただくより、1人の人に生涯通ってもらいたい。なきゃ困る、という存在になりたい」
そう語るのは、北海道函館市で他の大手ハンバーガーチェーン店を凌ぎ、圧倒的な人気を誇る「ラッキーピエロ」の王一郎(おう・いちろう)社長だ。
2014年6月19日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、「地域で愛される店づくり」にこだわり、トヨタも手本にするほどだというこの店の経営術を紹介した。
村上龍も進行を気にしながらも齧り付く
1番人気の「チャイニーズチキンバーガー」は、中華味のタレに漬け込んだ唐揚げが、レタスとマヨネーズソースによく合う一品。番組で試食した村上龍は、よほどおいしかったのか、進行を気にしながら「もう1口食べていい?」と言いながら齧り付いていた。
そんなにおいしくて流行っているなら、東京に進出してそのうち首都圏でも食べられるだろうと思いきや、ゲスト出演した王氏は「東京進出はない」と断言した。
「私はマスマーケティングのように、1つの表現でものすごい数の顧客を獲得する時代はもう終わったと思うんです。小規模な(顧客)グループに、徹底的に楽しんでもらえればいいと思う」
全国展開しない理由は、食材の調達先の85%が北海道産ということもある。原価率は50%を超えるが、安心食材でお客の信頼を得て、地元を豊かにするためには譲れない。「売上げが上がるほど、高原価が許される」といい、商品力を増して地域でダントツNo.1になれば満足だそうだ。
メニューはハンバーガーだけでも15種類、カレーやオムライス、カツどん等、100種類以上ある。つくり置きせず、注文を受けてから火にかけるため回転率は悪くなるが、揚げたて・焼きたては格段においしい。効率を追求する大手チェーンの真逆をいくやり方だ。
「人に伝えたくなる」店づくりにこだわる
味だけではなく、見た目のインパクトも強い。23センチの高さに積み上げた「函館山バーガー」は、店員が鐘を鳴らしながら運んでくる。「これが旅の目的」という青年は、店中の客の注目を集めながら20分で平らげ、写真つきでフェイスブックにあげていた。
他にも、ひと抱えもあろうかという椀に、とんかつが2つ乗った「ダブルカツどん」など、友人知人に自慢したくなる品で口コミ効果があるという。
函館の小さなハンバーガー店だったラッキーピエロがここまで成長したのには、口コミの力が大きい。ネットが普及する以前、ライダースーツ姿の客が大挙して押し寄せたことがある。バイク愛好家の泊まる宿に置かれた「旅ノート」にそのおいしさが記されていたためだ。
口コミの重要性に気づいた王社長は、“人に伝えたくなる”店づくりにこだわった。函館市を中心に16ある店舗は、店ごとにテーマを設けた。「プレスリー」や「サンタクロース」、店内にメリーゴーランドがある店まである。
一番新しい店では巨大なオブジェのような赤いイスがあり、「座ると財運がアップする」とのこと。家族で座って記念撮影し、ネットで人に伝えたくなる。赤や黄色のパッケージにピエロの絵が入った土産菓子を販売し、全国に函館土産として持ち帰って貰うことで、「函館に行ったらラッキーピエロ」という情報が広まる。
「中央への、根拠のない憧れ」からの脱皮
王社長は「たくさん食べてくださる方をえこひいきするのは当たり前」と、来客回数ごとに4段階で利用金額の還元率が高まるポイント制を導入している。
最高ランクは「スーパースター団員」で、ある女性客は入店するなり「スーパースターの岡田様ご来店です!」と大歓待で迎えられ、女性店長はハグまでしていた。
スーパースター団員は、ラッキーピエログループの新年会に招かれたり、新作試食会に呼ばれ商品作りの一端を担ったりする。「身内」扱いされることで愛着が増し、熱心なリピーターになってくれるというわけだ。
村上龍の「いまなぜ、地域一番に気づいたのか?」との質問に、王社長はこう答えた。
「私が子どものころ(戦後)は、食べることが豊かさの象徴で『胃袋』で食べていた。それが高度成長期に入ると(中流を意識しながらおいしいものをと)『舌』や『目』で食べるようになった。バブルが崩壊してからは『これは誰がどうやって作ったのか』と、お客様が『頭』で食べるようになった」
それを受けて村上龍は、「最後は『心』で食べる時代になっているんでしょう」と王社長の時代を読む目を感嘆し、編集後記でこう結んだ。
「中央への、根拠のない憧れから脱皮する企業が増えている。ラッキーピエロは、その象徴だ」
飲食業に限らず、人気店が東京や海外進出することは当然の動きだと思っていたが、地域を徹底的に突き詰める成功の形があることを知った。
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