2014年10月16日木曜日

あなたの代わりにスマホが稼いでくれる「親指副業生活」 ふくぶく家計への全課題[3] PRESIDENT 2013年5月13日号


1週間10万円の売り上げ達成


500万円。給与収入の額ではない。地方の自動車部品メーカーに勤務する細田明佑さん(49歳)が2010年に副業で得た売上金額だ。


細田さんの副業内容はわかりやすい。洋楽ロックのレコードを海外から安く仕入れて国内で高く売り、その差額を得ること。仕入れはeBay 、販売はヤフオク!(Yahoo!オークション)と、ネットオークションのみ。


入札や入金状況、顧客からのメールは会社の昼休みにスマホで見られる。オークションは金曜日に締め切るため、商品の梱包や発送作業は土日だけで終わる。そして、新たなレコードを出品する。これだけで本当に500万円もの売り上げになるのだろうか。





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儲ける仕組み


「昔のレコードは骨董品のようにプレミアがつき、マニアの間で高額で売買されているものがあります。国内で2万円の値段がついているレコードを海外から1万円で購入し、1万5000円で販売できれば、僕は5000円の利益を得て、お客様にも喜んでもらえます」


きっかけは15年前、ウインドウズ98の発売によるネットの普及だった。長年の趣味でレコードを収集していた細田さんは、レコード情報を載せたホームページを作成して楽しみつつ、あわよくば販売につなげたりアフィリエイト(成果報酬型広告)収入を得ることを思いつく。


「結果は惨敗でした。個人のホームページからわざわざ購入する人なんて皆無。アクセス数も低迷してアフィリエイト収入もゼロに等しかったです」


一方で、レコード収集の趣味は過熱した。ネットで検索して海外の店やオークションサイトから格安で購入できるようになったことは、国内のレコード店を回って名盤を探し続けていた細田さんにとって、革命に等しい変化だったのだ。





自らもオークションサイトで売り出すことに決めたのは5年前。自宅の引っ越しに伴い、3万枚ほどのコレクションを整理することができた。ダブりなどで不要なレコードを処分するつもりでオークションに出品してみた。


「軽い気持ちだったので100円でスタートしたところ、どんどん値が上がって、1万円という予想外の高値で落札されました。正直、驚きましたよ」


時はリーマン・ショックのただなか。会社では派遣切りが行われ、細田さんの年収はボーナスカットなどで100万円も減った。年齢的にはリストラもありうる。専業主婦の妻と小学生の子どもを抱えて路頭に迷うわけにはいかない。






細田さんは「1日1万円」という売り上げ目標を掲げて、「レコード店主」業に本腰を入れることを決意する。


洋楽のレコードを出品している人は無数に存在する。細田さんは注目度を上げるために、原価割れリスクもある「全品100円スタート」を継続。リピーターや同日に複数買ってくれた客は100円引き、商品を発送する際は、顧客と自分の名前を手書きで入れたサンキューレターを同封するなどの工夫をこらした。


翌年の09年には1日1万円の目標を達成して年商365万円。そして、10年は週に10万円の目標も超えて500万円に達した。利益率は約3割だ。単純計算で150万円の副収入となる。





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・納税時、損益通算できる所得とできない所得

・副収入の種類による違い


細田さんの生活防衛術は手取り収入のアップに留まらない。レコード販売業の事業経費を申告することによって、サラリーマンとしての給料から源泉徴収されていた所得税数十万円の全額還付に成功したのだ。


「これは脱税ではなく節税です。実際に副業を自宅で行っているのですから、自宅の水道光熱費や車の費用の一部を計上するのは当然。いままで遊興費だったオーディオ装置や楽器、コンサートのチケット代に至るまで、すべてが必要経費です。つまり、副業の収益がトントンであっても、所得税と住民税を大幅に節税することができます」


副業を利用して節税を試みると、会社にも副業している事実が明らかになる。後ろ指は差されたくない。


「就業規則を読み、上長の承認を得れば副業を行ってもいいと判断しました。実際、残業代のカット分を補うためにコンビニや代行運転のアルバイトをしている同僚も多く、兼業農家の社員も在籍しています。私は工場長に事情を話し、副業で得た収入を確定申告する旨を伝えて快諾を得ました」


細田さんは会社の仕事に悪影響を出さないことを最低条件としている。副業によって「主業」を失っては本末転倒だからだ。




売り買いを逆にするだけ


このようなネット副業は誰にでもできるものなのか。英語での取引にも不安を感じる。


「長年何かを買い続けている経験があれば大丈夫です。売り買いの立場を反対にするだけですから。その商品が大好きで、買っている人の気持ちを知っているから、どうすればお客様に喜んでもらえるかがわかります。これは大きな強みですよ。英語はもっと心配ありません。中学校レベルで十分です。私は15年間の海外との取引で、トラブルに遭ったことは一度もありません」


細田さんのように、何かが好きで買い続けてきた実績が最重要なのだ。このアドバイスは、顧客目線のサービス考案や商品の目利き能力だけを指しているのではない。


筆者の友人で、英語が堪能で法律にも明るい男性会社員がいる。一時期、彼は人気映画シリーズ『ハリー・ポッター』関連のグッズをeBayでまとめて仕入れて、バラにしてヤフーオークションで販売していた。


商売は順調だったようだが、数年後に会ったらやめていた。もともとハリー・ポッターファンではなかったので飽きてしまったという。それではせっかく築いた顧客リストも無駄になる。副業といえども「商いは飽きない」ことが大切なのだ。


現在、細田さんもネット副業を控えめにしている。100円スタートをやめ、出品数も減らした。ただし、レコードに飽きたのではなく、「次のステージ」を目指したくなったからだ。


「自分が好きな音楽を人に紹介する仕事を模索しています。昨年からは名盤レコードを解説付きで楽しむ『大人のロック講座』というイベントを主宰し、毎回30人以上の集客を得ています。今の目標は、売上高ではなくピーター・バラカンさんです」


細田さんはサラリーマン生活では得られなかった自己実現をしつつある。もちろん、その基盤は「再びネット副業を増やせば生活費程度は稼げる」という自信に支えられている。


心強い後日談もある。細田さんが楽しそうにレコードを事業化しているのを傍らで見ていた妻が、趣味で集めていた海外アクセサリーをネットで仕入れて販売し始めたのだ。ノウハウは細田さんが伝授し、商売は出だしから好調。月に100万円もの売り上げを記録している。かつてリストラにおびえた細田家はもはや安泰だ。