2017年9月8日金曜日

過疎対策の高校野球


白球の力、人口減止める 「甲子園の期待」過疎対策に 高知・梼原町 
若者の減少と高齢化に悩まされてきた高知県北西部の梼原町(ゆすはらちょう)で、10年前に発足した高校野球部が起爆剤となり、人口流出に歯止めがかかっている。町内唯一の県立梼原高。今夏の全国高校野球選手権高知大会では明徳義塾高と決勝を争ってスタンドを沸かせ、次こそは甲子園にと期待が高まる。異色の過疎対策として注目を集めそうだが、継続に課題も出ている。



 梼原町は愛媛県との境に位置し、中心部は標高約410メートルの高地。町の約90%が森林だ。町によると、人口は1950年代後半に約1万1千人だったが、現在は約3600人。梼原高は平成18年の新入生が17人で、県の基準で統廃合を検討しなければならない状況だった。

 「野球部をつくれば若者が残り、町の活性化にもつながるのでは」。同校でこうした考えが出て、翌年に硬式野球部が正式発足。25年には、選抜高校野球大会で県立室戸高を全国ベスト8に導いた梼原町出身の横川恒雄監督(65)を招いた。

 狙いは的中する。町外から野球部に入る生徒が増加し、多い年は野球部員43人中40人が町外出身となるほど。同町では近年、転入人数が転出を上回る年度も増えている。同町の会社経営、中越春子さん(63)は「テレビ観戦する人も多かったのか、高知大会決勝の日は往来から人がいなくなりました」と振り返る。

 高まる期待に「毎日がプレッシャー」と横川監督。監督を慕っての入部も多く、後継の指導者探しも悩みの種だ。「『地域と共に』がなければ野球部は成り立たない」と厳しい視線で話す。

2017年9月5日火曜日

ファナックがオープンプラットフォーム「FIELD system(以下フィールドシステム)」



トップ企業が続々参加、ファナックの「工場を賢く」する仕組み




トップ企業が続々参加、ファナックの「工場を賢く」する仕組み


9/5(火) 8:00配信




毎月2万5000台のCNCおよびロボットコントローラー制御部を製造する、CNC工場。知能ロボットを活用し、正確な作業を行っている。

富士山麓・山梨県忍野村にあるファナックには、サッチャー元首相をはじめ各国要人も視察に訪れている。世界中から注目を集めるその理由は、1980年代から脈々と受け継がれる2つのキーワードにあった。

トヨタ自動車、日立製作所、ホンダ、パナソニック……。工場の自動化(FA)事業やロボットで知られる世界的メーカー、ファナックがオープンプラットフォーム「FIELD system(以下フィールドシステム)」を発表すると、上記のようなトップ企業がパートナーとして参加を決めた。その数、約200社。それが昨年のことだ。しかし─。

「いま400社を超えました」

1年で倍に増えたことをファナックの会長・稲葉善治はあっさりと言う。製造の現場をつなぎ、工場を賢くするフィールドシステムについて説明するには、倍増の勢いから解読した方がいいだろう。ファナック本社で聞いた、稲葉の話から浮上するキーワードは2つ。「思想」と「時間軸」だ。

「もともと日本にはコネクテッド・インダストリーズの土壌があり、1989年に東京大学の吉川弘之先生が提唱されたIMS(知的生産システム)の国際プロジェクトが原点です。ドイツのインダストリー4.0もIMSの流れから派生したものです」

稲葉が言うIMSは、ベルリンの壁が崩壊した89年、のちに東大総長や日本学術会議会長を歴任する吉川弘之が提唱した。バブル景気の当時、製造業は空洞化に直面しており、何よりも冷戦体制の崩壊という歴史の変わり目に差しかかろうとしていた。世界の枠組みが変わるなか、吉川はIMS20年史でこう指摘している。

「長い目で見れば人類にとって製造業の存立が危うくなる」

危機の大きな一因が、先進国間の過当競争であり、「世界全体として見たグローバルプロダクティビティの低下を招いている」と述べている。このとき、吉川が提案したのが、「プレ・コンペティティブ(競争前)技術」という概念だった。稲葉が説明する。

「競争に入る前に、体系化できていない生産技術の知識を共有化して、競争コストを低減させれば、新技術開発に投資ができます。そこで、共通のプラットフォームをつくっていこうとなったのです」

─生産知識の開放。これがIMSの思想であり、20世紀型工業モデルから脱するオープンイノベーションだった。日本を中心に、欧米、豪州、カナダ、韓国と国際スキームは拡大し、日本からは約200社が参加していたという。しかし、「当時はIT技術が伴わなかったのです」と稲葉は振り返る。ただ、思想はすでに共有されていたのだ。

それから約30年。機械の故障予知やロボット事業など製造現場の稼働率向上を得意としてきたファナックは、人工知能を搭載した「フィールドシステム」を開発した。工場のためのIoT基盤であり、稲葉は「スマホをイメージしていただくとわかりやすい」と言う。

「スマホでダウンロードしたアプリがアップデートすると、ユーザーに『アップデートしますか』と聞いてきますよね。これと同じです。フィールドシステムはプラットフォームであり、お客様であるユーザーが好きなソフトを使用します。工場を管理したり生産性を上げたりするソフトです。工場の古い機械でもフィールドシステムにつながることで最新の機能を与えられます」



生涯保守で、未来を読む

個別の工場や機械に対応するソフトを開発すれば、コストは増大する。スマホのアプリの発想で工場そのものを賢くする。部分最適から全体最適を目指したものであり、「競争前」技術の共有化でもある。

「例えば、刃物など切削を扱ってきたパートナー企業が、最適な切削条件や刃物が磨耗する交換時期をフィールドシステムを通してお客さんに伝え、最適な使い方を提供します。もっとも生産効率が上がる仕組みを構築できるのです」

生涯保守で、未来を読む

ファナックは、各メーカーやソフトウェア企業が開発したアプリを認証する立場にある。アップルに音楽ビジネスや著作権、コンテンツの知見がなければスマホが成立しなかったように、オープンプラットフォームの要諦は、ただ「開いて」「つなぐ」だけではなく、各製造現場が求める技術を熟知できている点にあるのではないだろうか。それはファナックが独自の時間軸をもっていることが背景にある。稲葉がこう話す。

「創業以来の思想ですが、お客様が使っている40年前のユニットをいまでも修理します。例えば、半導体部品は簡単に生産終了になってしまうので、急に古い半導体を手に入れようと思ってもできません。サプライヤーが部品の生産を終了する時点で、30年から40年の需要予測を立ててストックしているのです」

人間は世代交代するが、技術は生き続ける。エンジニアが退職しても、修理のノウハウをデータ化してあるため、若い世代でも修理ができる。顧客が機械を使っている限り、保守を続ける「生涯保守」と稲葉は言う。寄り添うことで、製造現場が何を必要としてくるか未来が見えると言えるだろう。ファナックが中期経営計画を立てない理由もこう言う。

「3年とか5年先のことは頭に入れていません。目先のことでこの世界を見ようとしたら、必ずロングレンジの計画を後回しにしてしまいます。100年、200年、それ以上に企業が生き延びるにはどうしたらいいかを考えているのです」