2014年5月26日月曜日

孫正義は、なぜ稀代の名経営者なのか?“辺り構わず”業容拡大する狩猟民族経営の正体


孫正義は、なぜ稀代の名経営者なのか?“辺り構わず”業容拡大する狩猟民族経営の正体

Business Journal 2014/5/25 03:00 山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役



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 ユニクロなどを展開するファーストリテイリング社長の柳井正氏と、ソフトバンク社長の孫正義氏は、実質的な創業社長として現在日本における2大名経営者だと思います。ビジネス拡大の手腕については、ともに稀有というべき実績を残してきた2人ですが、その経営手法やスタイルには大きな差異が見られます。差異の筆頭ともいえるのが、「ビジネス・ドメイン(事業領域)」との関わり方でしょう。

●ドメインを果敢に飛び越えてきた孫正義

 ソフトバンクの本業として、現在多くの人たちが想起するのが携帯電話通信業者(キャリア)だということでしょう。iPhoneをメイン・アイテムとする日本の三大キャリアの1社です。2010年にはウィルコム、12年にはイー・アクセスを買収し、13年には米国でスプリント・ネクステルを買収してグローバルでも通信業のビッグプレーヤーとしての位置をうかがっています。

 しかし、ソフトバンクの発展を振り返ってみると、実は最初から通信業界の覇者を狙っていたわけではありません。

 筆者は1980年代の終わりに、とあるパソコンとソフトの販売会社で営業責任者をしていましたが、当時、ビジネス向けソフトウェアに関してはソフトバンクの前身である日本ソフトバンクが最大の購入先でした。ソフトバンクはソフトウェアの分野では日本における最大の卸業者だったのです。孫氏は重病を患って死線をさまよい入院していた時期で、筆者の在任3年間に現場に出てくることはありませんでした。

 そもそもこの一代の風雲児が米カリフォルニア大学バークレー校留学時代にベンチャーとして起業したのが、電子翻訳機でした。ですから孫氏は小なりとも製造業者としてそのビジネス人生をスタートさせたのです。事業家としての孫正義の真骨頂は、その電子翻訳機の開発・製造のために、自分の恩師であった同校教授を社員として雇い入れてしまったこと、そしてこの翻訳機を自社だけで販売しようとしないで、一面識もないシャープに押しかけてデモを披露した揚げ句、その権利を1億円で売却したということでしょう。「一学生の行動としては」と嘆声を上げざるを得ません。

 起業してからのソフトバンクの発展の経緯を見ると、次のような大きなイベントがありました。

 ・95年:展示会運営会社コムデックス買収
 ・96年:米国ヤフーに出資
 ・同:テレビ朝日株を購入
 ・98年:出版業ソフトバンク・パブリッシング設立
 ・99年:証券取引所ナスダック・ジャパン設立
 ・00年:日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)の筆頭株主

 ソフトバンクが通信業に本業の軸足を移したのは、01年にヤフー(日本)と共同でADSL接続サービスのYahoo! BBの提供を開始して以来のことにすぎません。いや、それ以降も福岡ダイエーホークスを買収したり、東日本大震災を契機にエネルギー事業である風力発電事業へ参入したり、「当たるを幸い」といった勢いで業容を展開しています。




このように孫氏が事業を発展してきた経緯を振り返ってみると、「辺り構わず」ともいえるビジネス・ドメインの展開ぶりです。なにしろ、製造業から流通業へ移って初期の業容拡大を成した後は、展示会運営会社であるコムデックスや出版会社を買収しては売却したり、金融事業からエネルギー事業までに参入したりと、基軸といえる事業の軸足を大きく動かしてきています。その放散ぶりは「しっちゃか、めっちゃか」とまで形容できるのではないかと思ってしまいます。

「大きくなれればなんでもいい」

 これが実は孫氏という経営者の正体なのではないかと筆者は思っています。これは別に悪いことではなく、むしろ感心します。成長可能性の大きい事業領域にある特殊な境遇の会社に大胆に手を出すことによって、自らの事業全体の成長を加速していく、そういうことに関して恐ろしく嗅覚が鋭く、かつ果断に突っ込んでいくことのできる稀代の事業家なのです。

●狩猟民族経営

 孫氏のこのようなビジネス展開の手法、そしてそれを裏付けている経営哲学は、華僑華人の経営者のそれらと、とても似ています。筆者は以前、香港証券取引所に上場している華僑の会社の日本法人社長を4年ほど務めていた際によく観察する機会がありましたので、つくづくそう思います。

 中国系企業家の特徴は、「関係(ガンシー)」ということを何よりも重視して、ビジネス機会があれば決してそれを逃さない、というところにあります。BtoBであろうがBtoCであろうが構わず進出していった結果、事業会社には共通性が見られない不整合なコングロマリットとして巨大化していくモデルです。

 柳井氏がソフトバンクの社外取締役に就任して、その役員会に出席した感想を次のように述べています。

「役員会でも百億円単位の話をすると、みんなが『小さい話だ』と言って、一千億円という金額でも『たいしたことないな』と言うんです。単位が僕らの感覚とかなり違う。それは孫さん自身がそれまで投資家の面があったからでしょう。株式市場から資金を調達して事業を拡大していくんですね。(略)普通の会社ではとてもそこまでリスクはとれない」(「企業家倶楽部」<07年4月号>より)

 柳井氏のこのコメントは、柳井氏と孫氏の経営の違いを象徴的に表しているように私には思えます。前回記事『ユニクロ柳井正の農耕民族経営 同じことの繰り返し&精緻化で同一事業領域を深掘り』で、筆者は柳井氏の経営を「農耕民族経営」と表しました。それに対し孫氏のそれは「狩猟民族経営」といえます。

 日本を代表する2人の名経営者は、とても対照的な経営アプローチをみせています。

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